先祖を祀る

精霊(しょうれい)の宿るところ 「お位牌(いはい)」

東光院萩の寺住職 村山廣甫

家庭のお仏壇の中には、ご本尊を中央に、その脇の一段下がったところに、ご先祖のお戒名あるいはご法名を記したお位牌が安置されています。

なぜ、お位牌をまつるのか

「うちは亡くなった人がいないからお仏壇はありません」と言っている人がいます。これは、お仏壇を位牌壇と思い違いしているからです。お仏壇の中心は、あくまでもご本尊で、ご本尊とともにお位牌を拝むというのが正しいあり方です。ご本尊をまつらないで、お位牌だけを安置してあるのは、“位牌壇”であり、お仏壇ではないのです。

亡くなられた方のお戒名、あるいはご法名を記したお位牌は、亡くなられた方の「依代(よりしろ)」として、また、ご先祖や故人の「霊(みたま)の象徴(シンボル)」として拝むわけですが、昔はいざというときには、ご先祖のお位牌を、まず持ってから避難するということを、見聞きしたものです。それだけ身近に大事に考えられていたのです。

お位牌のおこり

お位牌の起源は、一般的に、中国の儒教に基づいていると考えられています。

儒教(じゅきょう)の文献『礼記(らいき)』や『儀礼』の死者儀礼の中に、「お位牌」のことが出てきます。

当時の死者儀礼では、一定の間、屋敷内で安置された故人の遺体は、墓地に埋葬され、その後、初めてお葬式となります。このとき、故人の御魂(みたま)を神霊につかせる依代として、桑の木の板に書いた「木主(もくしゅ)」をつくり拝んだのです。

さらに、この木主は、仏教の一周忌にあたる十三カ月目のお祭りのときに埋められ、かわりに、四十センチほどの栗の木でつくつた「栗主(りっしゅ)」がつくられ、廟(びょう)に納めるのがしきたりでした。故人の官位や姓名を記したので、これを「位板(いはん)」と呼びました。

現在、お葬式には白木造りの「野位牌(のいはい)」や「内位牌(うちいはい)」を用い、満中陰の四十九日に漆塗りの「本位牌(ほんいはい)」にかえてお仏壇に納めるやり方は、この儒教の影響とみることができます。

この風習を、宋代に中国に留学していた禅僧が、わが国へ伝え、「位牌」と呼ばれたのが始まりです。「位牌」は『太平記』などにも登場しますが、十六世紀なって一般に普及し、江戸時代になってさらに広まったと思われます。

お位牌のいろいろ

野位牌、内位牌と本位牌

葬儀のときに用意される白木の野位牌は、お葬式のとき、故人と一番血縁の深い人か相続人が持って墓所に行き、そこに供えます。さらにもう一つ別の白木造りの内位牌は、四十九日の満中陰まで白木の祭壇におまつりをして、その後は、お仏壇にまつる黒漆塗り、もしくは金箔張りの本位牌を開眼して、お仏壇の中で永く安置、ご供養します。このとき、お魂抜きした白木の内位牌は、お寺に納めます。これら白木位牌は、葬儀社が手配しますが、お仏壇に安置するものではありません。

本位牌と寺位牌

本位牌には、故人一人ひとりのために、一基ずつつくられる「札位牌(ふだいはい)」、屋根や扉のついた枠があって、その中に、戒名、法名を書いた長方形の板位牌を納めた「繰(く)り出(だ)し位牌」、札位牌を大型にした「屛位(へいい)」の三種があります。この仏壇用に安置する塗位牌は仏具店で購入します。

本位牌は、各家庭のお仏壇におまつりするので、「内位牌」とも呼ばれますが、これに対し、お寺に立牌して永年供養してもらうお位牌を「寺位牌」といいます。寺位牌には、屛位を用いているのをよく見かけます。通例、お寺側で用意します。

なお、禅宗では寺位牌のことを「入祖堂牌(にっそどうはい)」とも呼び、各家庭におまつりされる内位牌の本体であるという考えから「本位牌」とも呼んでいます。檀信徒は菩提寺にこの寺位牌を立てるのが正式です。

順修牌と逆修牌(寿牌)

順修牌(じゅんしゅうはい)とは、亡くなった方のためにつくられたもので、普通、単にお位牌と呼ぶ場合、この順修牌をいいます。これに寸して、逆修牌(ぎゃくしゅうはい)は、生前にあらかじめお戒名、ご法名をつけてもらい、それをお位牌に書きしるすものです。このように生前中につくっておくお位牌のことを「寿牌(じゅはい)」ともいいますが、これは逆修牌のお戒名やご法名を朱で埋めておく風習からいわれる呼称です。

法名軸とは

浄土真宗では、お位牌を使わず、かわりにお軸を使いますが、これを法名軸(ほうみょうじく)といいます。浄土真宗がお位牌を使わないのは、故人は、死後は阿弥陀仏の仏国土である極楽浄土に生まれかわり、仏弟子として、衆生救済のため働いているとの考え方から、精霊が宿るお位牌を認めないわけです。

しかし、ご先祖や故人をないがしろにするのではなく、紙に法名を書いて表装し、これをお仏壇の中にかけて礼拝します。なお最近では、この法名軸の代用として、過去帳を用いる例も多くみられます。

お位牌を安置する場所

お位牌はあくまでもご本尊ではありません。ご本尊を押しのけて、お位牌が中央に位置したり、上段に安置されることがあってはなりません。原則として、最上段にあるご本尊と同じ平面に置かないことです(曹洞宗は例外)。

新しくお位牌を設けたとき、必ず開眼(お性根を入れる)法要を菩提寺にお願いして、入魂してもらわなければなりません。ご先祖や故人の精霊がお位牌に寄宿するという考えによるものです。

また、お仏壇に、あまり多くのお位牌が並んだ場合、五十回忌を過ぎたお位牌は、先祖代々のお位牌に祖霊として合祀されると考えてよいでしょう。

この場合は、先祖代々牌へのお魂入れと、五十回忌を過ぎたお位牌のお性根抜き法要を同時に修して、お位牌をお仏壇からなくしてしまう必要があるのです。

お位牌の書式について

新帰元(上文字) ○○院△△□□居士(中文字) 霊位(下文字)

およそ、新亡が在家の場合、白木の内位牌には右のように印されるのが一般的です。この“上文字”とは、置き字で、死をあらわす呼称です。四十九日を過ぎて立てる本位牌の書式として、「昭和修訂 曹洞宗行持軌範」では、この「新帰元」のところに「空」の字を書き、さらに戒名の下を一字分あけて、下文字の「霊(れいい)」または「位(い)」を書くと規定しています。忌中につけられた上文字の「新帰元」がとられるのです。

なお密教系の場合は、諸仏の種字(しゅじ)を悉曇(しったん)文字で書き、また浄土宗でも阿弥陀仏の種字である●●●を書く場合が多く、ここでは上文字は諸仏によって霊が救われたことを表わす意味で用いられています。下文字には、一般に「霊位」が広く用いられています。

またお位牌の裏書きには、寂年(没年)月日、俗名、行年(こうねん)(享年(きょうねん)―――死亡年令)が書かれるのが通例ですが、寂年月日を、表側の戒名の左右に割書きする場合もあります。

いろいろな仏具

三具足と五具足

三具足と五具足ともお仏壇に向かって、図のように配置します。三具足はロウソク立てと花立ての位置を間違えないように、香炉は三本の脚のうち一本だけが手前にくるように置きます。

仏飯器

一つ(本尊)、三つ(本尊・先祖・無縁さん)、仏飯台の上に置いてお供えします。

茶湯器

宗派によって名号、図柄が異なります。中央に浄水、右に蜜湯、左に茶をお供えします。一つ(本尊)、三つ(本尊・先祖・無縁さん)

高杯(たかつき)一対

両方蜜菓子をお供えするのが基本です。しかし、右に蜜菓子、左に果物、下に半紙を折って一対としてお供えしてもかまいません。

供笥(くげ)(三宝)

浄土真宗で高杯と同じ用途に使われる仏具です。

霊供膳(りょうぐぜん)(「お霊膳」ともいう)

命日や法事、盆、彼岸などの特別な日の飲食供養(おんじきくよう)のため多く用いられます。手前に箸、左にご飯、右に汁物(味噌汁)、後ろの左に煮物の平椀(ひらわん)、右に煮物の壷、真ん中に腰高杯(漬物)の順に盛り付けます。お仏前に供えるものですから、ご本尊さまに向けて(お箸を本尊側に)お供えするのが正式です。また、お料理の内容は精進に限ることはいうまでもありません。

おリン

聞声悟道(もんしょうごどう)という教えがあります。大本山永平寺では、梵鐘を一打するごとに、一拝の五体投地をして、鐘の声に仏のお説法を聞くようおつとめされています。成道されてその喜びをかみしめておられた仏陀釈尊に「世尊よ、歩みたまえ」と、初転法輪をお勧めになったあの梵天さま(ブラフマー神、創造神)の尊い御声が、梵鐘の声音そのものと考えるのです。この梵鐘を在家用に小さくしたものがおリンです。

一般の礼拝では、お仏壇に合掌するときと、合掌した後に打ちます。ご本尊をお迎えし、日常のおつとめを果たして合掌礼拝した後、もとにお帰り願うと考えればよいでしょう。読経の途中でも、それぞれの規範にしたがっておリンを鳴らします。

これは、その部分が、お経中の重要なお示しの部分であったり、お坊さまの進退(礼拝の動作)を促すけじめや、区切りの部分であったりするわけです。おリンの音を梵天さまの尊い御声と感じるとき、邪念は払われ、清浄の心で信仰は一層深まり、お悟りを得た幸福が日々の生活を一段と明るいものにしてくれることでしょう。おリンの大型にしたものが、お寺の本堂に置いてあります。これを磐子(けいす)と呼んでいます。家庭用のおリンは、小磐といってもよいでしょう。

木魚(もくぎょ)

仏さまの慈悲の光は、眠っている夜にも、絶えることなく不断に、私たちの上に降り注いでいます。ネパールのカトマンズにあるスワヤンブナート寺院は、通称“目玉寺院”として有名です。そのお寺のストゥーパには、仏さまの威力を示す“二つの眼”が四方に描かれています。

“魚”は、私たちが眠っているときでも、目を閉じることなく見開いています。そこで、休みなく降り注ぐ仏さまの慈悲の光を象徴する生物として、魚が仏具にとり入れられたのです。

近世の大名が、自ら築いた城の天守閣の頂上に、鯱鉾(しゃちほこ)をのせて四方を威圧し、力を誇示したのも、おそらく同様の考え方によるものでしょう。

したがって、木魚を読経に合わせて打つのは、今あげているお経の内容が、一字一句「ゆめゆめ 疑うことなかれこれぞ誠の真理である」と“判決”し続けることなのです。戒尺を打つのも同じ趣旨と考えられます。

なお、禅宗寺院で、食事のときに打って人を集める魚形の木版(もっぱん)は、魚鼓(ほう)と呼ばれています。ポクポクとなる木魚は、ただ単に、読経のリズムを調える打楽器の音のみでなく、私たち凡夫の昏惰を警告する、仏さまの“判決”の御声なのです。

木柾(もくしょう)

主に日蓮宗で用いられ、柾鐘(たたきがね)も同様の趣旨で、読経中にそのリズムに合わせ、昏惰を戒めているのです。

和讃箱(わさんばこ)と和讃卓

浄土真宗で用います。親鸞聖人の和讃(和文で仏を礼讃したもの)を入れる箱とのせる台です。

御文箱(おふみばこ)

浄土真宗中興の祖・蓮如上人の言葉(御文章)を納める箱です。

打敷(うちしき)

釈尊がお説教をされたとき、座具(ざぐ)を敷いておられたとの故事から、お仏前の前卓(まえじょく)に、錦や金欄で織られた敷物を外側に垂らして荘厳さをつくり出す独特の飾りです。長方形と三角形がありますが、浄土真宗のみ三角形です。日常には多く用いることはありませんが、お盆、お彼岸、法事などのときは、必ず使用します。

過去帳と過去帳台

故人のお戒名もしくはご法名、寂(没)年月日、俗名、行(こう)(亨)年(きょうねん)○歳を記録する帳簿で、原則として菩提寺の住職に記帳し、作成していただきます。お寺では、檀信徒全員の家の過去帳がおまつりされており、ご本尊とともにもっとも大切に護持されています。過去帳はお位牌に準ずるものとして開眼(点眼)が必要です。

一般家庭では、直系のご先祖を記帳した過去帳を台にのせて、お仏壇の中に安置しておまつりします。「吾妻鏡」に、「過去帳を守り、かの忌日の役ごとに、一時念仏三味を勤行したてまつるべし」とあります。また必要なら、続柄、略歴等を記しておくことが大切な場合もあります。年表式と日めくり式の二種類があります。浄土真宗では、あくまでも過去帳は故人の記録として残しておくものですから、普段は閉じて、お仏壇の引出しなどの中に入れて、命日にあたる日だけお仏壇の最下段に出しておきます。

香炉

香炉の灰は、灰こしをしてつねに平らにしておきたいものです。

経机(きょうづくえ)

本来は経本をのせる机で、漆塗りの足つきです。おリンやお数珠、お経本などをのせるだけでなく、お仏壇の中でおとつめするのに危険な、ロウソク立て(燭台)やお線香立て(香炉)を下(おろ)して、この机の上でお給仕することもあります。あれば、たいへん便利。

マッチ消し、ロウソク消し

口で吹き消したりしないためのロウソク消し、また、安全のためのマッチ消しは、便利なものです。

線香差し

お仏前で使う、お線香を入れておく道具です。

合掌
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