先祖を祀る

日常のおつとめ―またはお給仕

東光院萩の寺住職 村山廣甫
限りある
いのちを持ちて
限りなき
いのちのひとを恋いたてまつる
いきとし生けるもの
いつの日か終りあり
されど
終りなきひといますれば
いちじつのうれしかり
ひとよのたのしかりけり
(一句説法より)

お仏壇は“わが生命(いのち)の故郷(ふるさと)”である仏さま(ご本尊)をおまつりするとともに、現在の自分自身の存在のルーツである今は亡き人 “ご先祖さま”に出会い対話する場所でもあります。うれしいにつけ悲しいにつけ、いつでも手を合わせ、それぞれの人格を磨き、清らかな家庭をつくる一家の中心としたいものです。

家族全員の精神修養の場として、その前に静かに座り、心を静め、供養の“まこと”を捧げること(これを「お給仕」または「おつとめ」という)から、一日の活動が始まるとすれば、それこそ豊かな生活の第一歩です。

前掲の句に示されているように、限りなき生命(いのち)の人を認め、敬愛することから“信仰生活”の第一歩が始まります。

人生という道程(みちのり)の目的地が、はっきりとみえてきます。日々のお給仕こそ、人生に「安心(あんじん)」を約束する尊い菩薩行といえましょう。

「日常のお給仕」とは、経典によれば、毎日三時(さんじ)(朝、昼、晩)の礼拝供養を意味します。これが習慣となり、大層なこと、おっくうなことと感じなくなるとき、初めて信仰生活が定着するでしょう。仏さまやご先祖をおまつりすることが、そのまま自然にあなたの人生に「安心」と「お悟り」を約束します。「大層な」と面倒がらないで、「簡単にしたい」などとわがままをいわないで、先人のお示しくださった尊い知恵を素直に実践していきましょう。

五供(ごく)」がお供え物の基本 お仏飯(ぶっぱん)は「お初」を

お仏壇は家具ではありません。いわば、家の中の小さなお寺であり、仏教の心を学ぶ道場です。お仏壇の上に衣類やダンボール箱などをのせている家庭がありますが感心できません。枯れた花や古くなったお供え物、マッチの燃えかすなどを置かないように注意します。いつも清浄さを保つようにしましょう。

さて、お仏壇のある家庭は、毎朝、お供えをして、毎日の外出前と帰宅時には、手を合わせる習慣をもちたいものです。

お供えの基本は、「五供」です。「五供」とは、香、華、燈燭、浄水(湯茶)、仏飯(菓・飲食)の五つを指すにとは、次に述べます(111ページ)。

毎日、朝食前にきちんと身支度をして、お仏飯(炊きたてのご飯)と浄水(または湯茶)を供えます。

お仏飯は炊きたての「お初」を盛ってお供えしましょう。もっとも、パン食の家庭ならパンをお供えしても差し支えありません。

茶湯器が三個あるときは(中央に浄水、向かって右が甘い蜜湯(みっとう)(お白湯(さゆ)に砂糖を少量落としたもの)、左がお茶を供えるのが正式です。高杯に果物とお菓子を一対にしてお供えするときは、向って右に蜜菓子(みつがし)(甘いお菓子)、左に果物を盛って供えます。その際、じかに盛らないで、半紙など紙を敷いてその上に置くようにしますが、紙は図のようにして折って敷きます。

真宗では、お華束(けそく)といって白餅を白供笥(くげ)に杉盛(すぎもり)とか須弥盛(しゅみもり)にして供えます。

季節の初物(はつもの)(果物・野菜・料理など)や珍しいいただきものは、必ずお供えしてから“お下がり”をいただくようにしましょう。

お供え物は、お花以外はその日のうちに下げて、捨てずにいただきます。お水は、施しの心をもって、植木などにかけてあげるといいでしょう。

ご本尊やご先祖(仏祖(ぶっそ)という)へのお給仕はお供養する人の敬虔な気持ちのあらわれです。いつもご本尊やご先祖といっしょに過ごすという心構えを忘れずに、自然にふるまえばよいのです。

しかし、お供え物の常識として、“生ぐさいもの”や“においの悪いもの”は避けるべきです。

いくら故人が好きだからといって「五辛(ごしん)」と呼ばれるニラやニンニク、ネギ、ラッキョウ、ショウガのようににおいの強いもの、生魚やレアのビーフステーキなどを供えるのはやめましょう。生ぐささがとれた「仏さま」になられたのですから、人であったときと同じように考えないことです。

供花についても、前述(34ページ)したようにいくら美しい花でも、常識的に考えて、バラや木瓜(ぼけ)のようなトゲのある樹の花、悪臭のある花、辛くにがい花、曼珠沙華や来竹桃などの毒性のある花などはひかえましょう。

また、お花はこまめに取り替えて常にきれいなお花を絶やさないようにしましょう。お花の水も、毎日取り替えたいものです。

夕方には、ロウソクとお線香をともし、おリン(錀)を鳴らして合掌し、一日の報告や無事の感謝を捧げます。夜の就寝時には、常夜灯をつけたままにし、内扉(透かしの戸帳)を閉めるのが礼儀です。ゴキブリやネズミなどからお仏壇を守ります。なお浄土真宗では日中は内扉のみを閉じておき、就寝前にはロウソクやお線香などの火元を点検し、すべての扉を閉じます。

おリンは内側からならし、火は息で吹き消さない

お仏前に清らかなお水をお供えし(浄水(じょうすい)供養)、お仏飯をお供えしたのち(飲食(おんじき)供養)、おつとめをします(利(り)供養)。

  1. まず、お仏壇の前に正座して、衣服の乱れを直します。背筋を伸ばし、呼吸を調えて気持ちを落ち着かせます。
  2. 気持ちが落ち着いたら、マッチを手にとって(最近は専用ライターもあります)火をつけ、ロウソク立てのロウソクに火を移します。使ったマッチは、香炉に入れてはいけません。香炉は聖なる場所ですから、必ずマッチ消しを用意しましょう。
  3. 次に、決まっている本数(76ページ)のお線香に火をつけます。火がついたかどうか確認しながらつけます。
  4. お線香に火がついたことを確認したら、炎を右手であおいで消します。お仏壇に用いる火を息で吹き消してはいけません。人と対面したときに、その人に向かって息を吹きかけたりするのは、たいへん失礼にあたるでしょう。それと同じです。ロウソクの火も吹き消さないようにロウソク消しや小さなうちわがあります。お写経をするときも、正式には「マスク」をして、写経用紙に息を吹きかけないようにします。
  5. お灯明をともし、お線香をあげ、手を合わせて合掌礼拝し、お念仏あるいはお題目を唱えたり、できたらお経もあげましょう。心を込めて読経すれば、やがて心の中にある仏さまの子としての面目が光を放ち、私たちと仏さまとが一体であることが感得できます。
    さらに、読経の功徳を、ご本尊さまや、ご先祖さま他の諸霊位に回向いたしましょう。一般的には「三帰依文(さんきえもん)」「懺悔文(ざんげもん)」「四弘誓願(しぐせいがん)」「御宝号(ごほうごう)」「総回向文(そうえこうもん)」などをお唱えします。
  6. 掃除やお給仕(平素のおつとめ)をお子さんやお孫さんに手伝ってもらい、できれば当番を決めて、みんなでお給仕するようにしましょう。お仏壇は、その家の日常の生活態度や心持ちがそのままあらわれているといっても過言ではないでしょう。きっと、親子、孫とのコミュニケーションの最高の場となるでしょう。

あくまで坐禅の曹洞宗 お線香を折る浄土真宗

曹洞宗では、日常のお給仕にも坐禅の精神が必要です。お仏壇の前では、ご本尊やご先祖に向かって、身を調え、息を調え、心を調えることが大切です。坐禅を体験されることをお勧めします。

また、お仏壇にお参りするときは、お数珠をかけます。合掌したときは、お数珠を両手の親指と人指し指の間にかけ、それ以外のときは左手に持ちます。お経をあげるときは、お経本を両手で持ち、目より少し下にさげて読みます。うつむいた姿勢になるのはよくありません。

お数珠は礼拝の法具であり、また、お経本は、私たちが生きていく上に大切な教えが説かれている本ですから、お仏壇の前の経机などに置き、畳の上とか、足で踏みつけそうなところには置かないようにしましょう。

なお、浄土真宗では、一日の始まりの朝と、終わりの夕に礼拝勤行(らいはいごんぎょう)します。まず、輪灯にお灯明を点じ、「燃香(ねんこう)」します。

勤行が終わると、朝はそのあと「仏供」(お仏飯のこと)を差し上げます。真宗大谷派では、ご飯を炊いた最初のひと盛り目を盛槽(もっそう)に詰めて形をつくります。円柱形のお仏飯となるわけです。なお、上卓の花瓶は、もとは浄水を供る水瓶ですから、樒(しきみ)を用いてお花を供えないのが作法です。

他家のお仏壇へも同じ気持ちでお参りする

他家のお仏壇の前に座り、調身→調息→調心して、ご本尊やお位牌を拝して一礼します。念香してから念珠をかけて合掌礼拝します。席をはずしてから退席のとき、家族に向かって挨拶をします。お供え物や「御仏前」などをお供えする場合は、正面を仏さまに向けて差し出します。よくお参りする人のほうに向けて金封やお供養の品をお供えしているのを見かけますが間違いです。

逆に、お客さまの訪問を受けた場合は、お仏壇の前に丁重(ていちょう)に案内し、脇にひかえてお参りしていただきます。お参りが済んで挨拶を受けたら、ていねいにお礼を返しましょう。

お仏壇はいつも清浄に

お仏壇が家庭の“聖域”であることは、お仏壇が常に清浄に奉仕されてあるということです。ですから、お掃除も行き届いていなければなりません。

福井の大本山永平寺に参拝しますと、若い雲水さんたちが、裸足で廊下の雑巾がけをしたり、庭の掃除をしています。若い雲水さんたちにとって、掃除も修行の一つですから、熱心に行っています。仏さまの周辺をいつも身ぎれいにする、これが仏さまに仕える何よりの条件です。

お仏壇を安置してある部屋は、すでに述べたように、風通しをよくすることが必要ですし、直射日光に当てないよう注意がいります。この仏間を掃除するとき、お仏壇の扉は必ず閉めておかねばなりません。お仏壇を手入れする道具としては、薄い手袋に軽い良質の毛バタキやつや出し布巾などを用意しましょう。

まず、掃除を始める前に、必ず合掌、礼拝をいたしましょう。

漆塗金仏壇の手入れには、慎重を要します。金箔の部分に手の脂や指紋がつくと落ちないので、薄い手袋をはめてさわるほうが無難です。また、手でさわったり、こすったりしますと、金箔部分がはげてしまいます。

ゴミやホコリは、毛バタキで力を入れないようにして軽く払っていきます。飾り彫りの部分や桟(さん)は、柔らかく毛をほぐした筆を用いても便利です。ご本尊やお位牌も同様で「お身ぬぐい」をさせていただくのだという心構えで、ていねいに払います。

漆塗りの部分は、柔らかい布やつや出し布巾でふけばつやが出ます。金属類や堅い物に当てるとキズがついたり、塗りがはげたりするので、仏具の移動は慎重に行うようにしましょう。また、漆は水に弱いので、水に濡らすことは絶対に禁物です。仏具を洗ったときや、お供え物を供えるときに、水分をつけたままでお仏壇に置くと、シミがついてしまいます。

金物や金具、金メッキは、汗ばんだ手でふれると早く錆びます。真鍮製のおリンや五具足、輪灯などは、真鍮磨(しんちゅうみがき)のみがき油を使って、よくみがき、そのあと乾いた布で油をふき取ります。彫りの部分は特に綿密にふき取る必要があります。

唐木仏壇の手入れは、比較的簡単で、手バタキではたき、つや出し布巾でふくだけでよいでしょう。

香炉の灰は、軟らかく、きれいにしましょう。特に、禅宗では「灰作務(はいざむ)」といって、大切な修行の一つとなっています。お線香の燃え残りやマッチの燃えかすは、常に片付けるようにしましょう。灰は風のない日を選んで乾燥させ、ふるいにかけて細かくします。また、灰の表面は平らにならしておきましょう。

鎮守(ちんじゅ)さまをおまつりする神棚

お仏壇のある家には、必ずといってよいほど神棚がおまつりされています。それは、歴史上、インドの仏さまが、日本で神さまとしてあらわれたと考える「本地垂迹(ほんぢすいじゃく)」の考え方が、長い間支配してきたことによるのです。

わが国のお寺でも、ご本尊をおまつりする本堂のほかに、ご本尊を神格化した鎮守さまをおまつりする鎮守堂があるのが一般です。全国四百万使徒を擁する小田原の「道了尊(どうりょうそん)」は、本地仏(ほんぢぶつ)である「十一面観音さま」の化身として信仰されています。そのおまつりの荘厳を一例としてあげておきましょう。

合掌
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